スキャンダルはバイクに乗って
初めてこの映画を観た時の衝撃は未だに忘れられない。その映画とは『醜聞(スキャンダル)』。制作されたのが1950年という事が信じられないぐらい現代でも充分通用する社会問題を扱った映画だ。と言うか、あれから日本人の倫理観は根っこのところでちっとも変わっていないことに愕然とし、それが衝撃的だったのだ。のちにビートたけしが軍団と講談社に乗り込み暴力事件を起こすが、まさにそれを予見していたかのような映画なのだ。まあ、話しの導入部分としてはそうなのだがこの映画で伝えたかったのは人は「己れの弱さ」とどう向き合っていくのかが最大のテーマとなっており、それを志村喬がやり過ぎかってぐらい過剰な演技で好演している。
劇中、三船敏郎演じる青江一郎が山口淑子演じる西条美也子に向かって、自分のまわりの連中(画壇)に対する不満を吐露する・・・
「僕がオートバイが好きなのは、あの傍若無人なところなんです。あんな風に生きられたらいい気持ちだと思ってね」
という台詞に象徴されるように「バイクに乗る」という行為そのものが体制的なものの見方をする者たちやそうした考え方に対する一種の反逆行為の象徴として描かれている。そうしたバイクに対する捉え方は90年代の「暴走族」に至るまであまり変わっていない。
キャブトンと呼ばれたそのバイクは正式名称をキャブトンRG型500ccと言い、みづほ自動車製作所が戦前に生産していたキャブトンVG型500ccを1950年に復活させたものである。
◉空冷OHV単気筒
◉最大出力は19 HP/3800rpm
◉最大トルクは4.0kg/3000rpm
◉最高速度130km/h
当時、みづほ自動車製作所の社長はバイクの月産台数第3位だった自社の企業イメージを向上させる目的で広告には相当力を入れていたようで、この映画へのバイクの提供は今で言うタイアップだったらしい。
エンジンは本家英国アリエルのコピーだったが、耐久性や信頼性も高く、1955年11月5~6日に開催された 第1回浅間高原レースでは、実用車然としたRTF500が、上位に失格車が出たこともあるが、なんと2位及び5位に入賞した実績を持つ。
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